小説
10月4日 (小説)サトの初恋

  サトは大きく息を吐いた。そうすると、自動的に空気が身体に取り込まれるのが面白くて、何度か同じ動作を繰り返した。   届かない恋というのは面白いもので、そのおかげで人生が豊かになったような気がした。豊かというのは、サト […]

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8月7日 パパ活と、囚人のジレンマ

隣の席にいる二人の会話は続く。「信じられる?同じチームのタトさん、パパ活してるんだってさー。そんなことを堂々と言っちゃうあたりがもう信じられない。まぁ、元々信用してなかったんだけど」「タトさんかー。パパになってるってこと […]

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5月2日 キーホルダー

階段を昇っていくと、ちょうど電車が停車しているのが見えた。乗れるのなら乗りたい、と思ったがたまたま、私の前に歩いていた人のリュックについていたキーホルダーが目に入り、そして私は階段でつまづいた。電車は行ってしまった。周り […]

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昔から変わってない

学級委員に選ばれるような人間だった自分、なぜそんな風に見られていたのかと考えてみたのだけれど多分、落ち着いて見えるからなのだと思う。 落ち着いているのではない。自分の中でたくさんの葛藤が生まれていたし、みんなと同じように […]

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親愛なる隣人

すぐに身体を求めてくるその思考。男って本当にどうしようもない生き物だ。一度、それを断ったらあからさまに態度を変えた男がいた。名前なんてすぐに忘れたけど。 私の身体は汚れているのかもしれない。私は、何かに縋りながら生きてい […]

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ほろ苦いビールの味

大好きだった彼と別れた。突然のことで、未だに頭が混乱したままだ。ただ、他に好きな人ができたという言葉だけを残して、彼はいなくなってしまった。 私が彼を繋ぎ止めておけるようなものは何も残っていなかった。いつも私が追いかけて […]

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雨が好きな人だっている

毎年、決まった時期に桜が咲くのだと思っていた。だいたいいつも、入学式が行われる頃。だけど今年は、それよりも早い、卒業式が行われる頃に、満開を迎えた。 死んだ母は、この季節が大好きだった。風に舞う桜吹雪を見ていると、なんだ […]

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傘をしまうビニール袋が気になってしまう男の話

カフェは混んでいた。雨だし、こんな駅前のカフェはお昼時こそ、混むべきなのだろう。いつもはフロアスタッフが2人で回しているが、今日は3人で回している。1人分の人件費を賄えるほど、十分な利益が出ると見越したのだろう。確かに、 […]

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私だって

私の声が届かない。そもそも、私の声はそんなに大きくないんだった。この世界は、私の声なんて必要ないのだった。私が何を考えて、何を発言しようが、季節は移り変わっていくのだった。 そんなことは4歳の頃から知っていた。 真夜中、 […]

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