4月20日 唐揚げのゴール

彼の顔が好きなの。
なんでか分かんないんだけど。
彼の、ボールを跳ね返そうとする時の、歯を食いしばった時の顔が。

応援しているチームが、防戦一方の展開。
こちらとしてはなんとか自陣からボールを出してくれ、最悪タッチラインを割ってスローインでも良いから、と戦々恐々としている最中、彼女はそんなことを言った。

私の願いが叶ったというべきか、あまりうれしくはない願いなのだが、ボールが本当にタッチラインを割り、相手チームのスローインとなった。
ボールがフィールド内に投げ入れられ、受ける人とそれをマークしてる人の小競り合いが始まる。もう一度スローインとなった。

けどさ、その、歯を食いしばった時の顔ってさ、ちょっとサディスティックじゃない?
彼女にそう言った。
だって普通じゃないもんそれ、と続けて言うと、彼女は少しむっとした顔をした。
私の好きな、彼女の顔だ。

うっせーなー!と彼女は言い、食べかけていた唐揚げを私の口に無理やりねじ込んだ。
まるで数年前に14番をつけていた外国人選手が、彼の身体的アドバンテージを前面に出し、あらゆる選手を薙ぎ倒して最後のゴールキーパーまでひらりと交わした後に決めたゴールのような、唐突さ。
私の口は咄嗟の攻めにゾーンディフェンスで対応することができず、唐揚げは私の口に、見事とも言えるゴールを決めた。
ゴールを決めた彼女の顔は、勝ち誇ったような恍惚とした表情で、私の大好物だった。これだからサッカーはやめられない。