8/13 読書感想文 幸福な食卓 瀬尾まいこ ★★★★☆

Kindle Unlimitedで読みました。瀬尾まいこさんの本を読むのはバトン以来2作目。

以下、ネタバレを含みます。ご自身の責任において読んでください。

私は瀬尾さんの小説はいい人ばかりに囲まれて、なんというか誰も傷つかず、健やかに育つ人間が集まっている印象でした。まだほとんど瀬尾さんのことを存じ上げない立場で言及すること、ご了承ください…

今作も同様で、主人公の佐和子はぱっと見ヘンテコな家族だけどみんな暖かくて、優しくて、佐和子の思いや言動に賛同してくれる家族に囲まれ、やがて出てくる恋人もなかなか良い感じの彼で、もうなんというかみんな幸せすぎて面白くない!と思わせるような作品でした。

途中までは。

私はこの本が賞を取ったことに、途中まで半信半疑でした。こんな小説、言い回しは平穏で読みやすいだけだし、文の美しさとかもあんま考えてないのかなとか思いながら読み続けました。

そして例のシーン、良い意味で裏切られました。

私はもしかすると、みんな元気で幸福なまま物語を終え、そして、なんだよこれつまらんかったじゃん、と感想を抱くものの、登場人物がみんな幸せで良かったなと暗に感じながら、本を閉じたことでしょう。だけど例のシーンがあり、私は混乱しました。こんな残酷なことってあるか、と。佐和子はずっと幸せで、何一つ苦労などせずに暮らしていくはずじゃなかったのかよ、と。

例のシーン以降、彼女の心境がゆっくりと綴られ、心を鋭利な刃物で抉られた佐和子は苦しみ、絶望し、まさか後を追って、、みたいな展開でしたが、冒頭に書いた優しい家族と友人たちのおかげでゆっくりと立ち直っていったところに、言いようのない感動を覚えました。

そしてその後に、ヨシコが佐和子の家族について言及するところにぐっときました。あぁそういうことかと。これが、受賞した理由に違いないぞと思いました。そして私は静かに、家族というまとまりが作る絆というものが、例のチャリティ番組をいくら観ても分からなかった絆というものが、じんわりと腹落ちしていくのに気づきました。

今あるものに感謝し、リスペクトしながら家族を形成していくことの難しさとかね。私は瀬尾さんの描く家族像がすごく好きです。こんなふうになれたらいいな、ってバトンの時も感じたし、今作のヘンテコな家族についても同様に感じました。そしてそれって普通のことではなくて、みんなそれぞれがそれぞれをきちんと観て、感じて、思いやることが必要なんだろうなと思いました。