少しずつ木々に緑色が増えていくように、人間にも希望の葉が増えていくような時期がある。
最初は自分でも気がつかないんだ。それはとても小さな葉っぱだから。
だけどそんな状態から、忘れずに水をやって注意深く観察していると、だんだんと葉っぱが大きくなっていくのが分かる。
そんなふうに、希望の葉が、大きくなっていくような時期。
四季で言うと春のような時期なんだけど、それが人間の春なんだと思う。
猫は窓から見える木々を眺めながら、そんな掴みどころのない話をした。
アパートの窓の先に大きな木があることで、日陰になる時間帯が多くて洗濯物が乾きづらいという難点はあるものの、そのおかげで四季の移り変わりが分かる。
そんな、良いのか悪いのか分からない木も、家族の一員みたいに感じている。
猫は「ちょっとタバコ吸ってくる」と言ってベランダに出た。家の中では禁煙ということにしている。
私が最初に住み始めたアパートだから、私の作るルールには従ってもらっている。
そういうところが猫と似ているから、私は彼をそう呼んでいる。
ベランダで、木を見ながらタバコを吸う彼の背中が見える。
ついさっきまで一緒に寝ていたベッドには、彼の温もりがまだ残っている。
彼と同棲し始めたのは、この温もりが欲しかったからだ。
彼が来るまでは、この部屋には私以外に体温を持つ動物がいなかった。
私の体温が、この部屋を構成する一つなのは寂しかったから、当時付き合っていた彼に同棲を持ちかけた。
彼はすぐに、「一緒に住むよ」と言ってくれた。
私が寂しがり屋だから、と彼は考えていたようだけれど、それは彼も寂しがり屋だということだ。
春。私の中の春。彼の温もりを感じながら、希望の葉について考えている。