彼はずっと燻り続けていた。
自分の思い描く理想は、こんなものじゃない。
自分にはもっと大きな称賛が。
誰もが、自分を一目見ただけで卒倒してしまうような、うねりのある興奮を。
ロンドンの空港で働く青年は、やがて自分を表現するための方法を考えていた。
フレディはずーっと、死ぬ瞬間まで葛藤し続けたように見えた。
自分のルーツ。
身体的な特徴。
思考。
親との確執。
家族というものについての考え方。
葛藤したところで、それが何かのきっかけによって得られるカタルシスなどで排出できたら良かったのだろう。けど、その排出方法がうまく見出せずに暮らしていたように感じる。
ブレイクスルーを経験し、トップスターになり、自分の思い通りに生活ができているように見えるがそれも束の間、「本当に信じ合える人間」が近くにいないことに気づく。
虚無感。
何をしても、満たされない日々。
自分では、何をしていいか分からなくなる。
自分のやりたいことが見つからない、というのは、自分が嫌いな証拠かなと思う。自分の興味があることに対し、興味がないのだから。
知ろうとしない。自分自身に興味がない。
好きの反対。無関心ということになる。
やがて彼は暴走する。周りの人間に操られるように、物事を進めていく。
家族と以前呼んでいた人間たちを遠ざける。
何が正しいのか、見いだせなくなる。
人間って簡単に堕ちるんだなぁと思った。
悪友たちによってお金を搾り取られ、自分が利用されていると気づいたとしても、それを止めることができないような人間になる。
救いなのは、そんな中でも、思いやりをもって声をかけてくれた人がいるという点。
映画だから脚色されているのだろうけど、雨のタクシーで、エミリーと対話したシーンが非常に印象的だった。私にはあのシーンが至高だった。心を揺り動かす。魂で語る、叫ぶ。そこでフレディは気づく。私は間違っていた、と。私が一緒にいるべき人間、進むべき道が間違っていたと。急速に自分に興味を持ち出す。自分の意思で、いつの間にか外れてしまった自分の道を再び見つけ出し、進むべき先を自分で選んだ。
その時にはすでに身体はウイルスで侵され始めていたというのが、最大の悲劇。
図らずも自分が道を外した時に行動したことの因果で、死の病を患う。時が戻ってくれれば。常に誰が大事なのか、それを彼が忘れなければ。たらればで語ったところで現実は戻らないが、早すぎる急逝であった。
私は高校の頃にQueenを知った。Bohemian Rhapsodyが代表曲と言われているかも知れないが、代表曲ってどれだろう、っていうくらい、好きな曲が多い。歌詞が良い、メロディが美しい、など楽曲の良さに惹かれていたが、彼の映画を観て気づいたのだが、楽曲もそうだがフレディマーキュリーという人間の清らかさ、実直さ、情熱、それらにも深く惹かれていたんだな、と認識させられる映画だった。