3月23日

少し湿った空気。午前にバーっと雨が降った。

雨が降りそうな空のことを「今にも泣き出しそうな空」と表現することがあるけれど、雨=空の涙と誰が決めたのだろう。
そんなことを思いながら歩いていたら、大きな水たまりに気づかず足を踏み入れてしまって、買ったばかりのスニーカーが濡れた。まさか、おろした日に水たまりへ侵入するなんて、このスニーカーを作った人ですら思いつかないだろう。

前を向いて歩くとか、上を向いて、下を向いて、いろいろな方向を見ながら歩くことができるけど、首は180度回転するわけではないから、後ろを見ながら歩き続けることはできない。
自分の足跡が残されているはずで、その足跡はつまり、あなたが今ここにいるという存在証明になるのだ。だけどその存在証明をはっきりと見ながら生きることができないのは、人間の欠陥なのかもしれない。

生きる目的を、欲しがる。生きがいも、生きる目的と同様か。
そんなもの、欲しがる必要なんてないということを理解しているはずなのに、どうしてもそういうものに縋りたくなってしまう。
自分が、ここに居るということに、自信を持てないから。

君の足を見てごらん?と空から声が落ちてきた。空耳?と思ったけど周りは時速50Km/hくらいで走る車だけ。もしかしたら誰かが窓を開けて喋ったのかもしれないけど、私にはそのように聞こえた。
足には、さっき濡れてしまったスニーカー。
思わず、後ろを振り返る。私の目はすぐに、私のスニーカーを濡らした水たまりを捉えた。
そうだ、そうなんだ、私の靴は、私があの水たまりを超えたという証明になるんだ。