マイ・ハウス | 小倉銀時 | ☆☆☆

Kindle Unlimited でお勧めされたので読みました。
パート暮らしのオバちゃんが、競売に出された一戸建てを買い、そこに住む女とどうのこうのする話。
以下、ネタバレを十分に含むのでご注意ください。

Photo by Andrea Piacquadio on Pexels.com

人は没頭すると、自分のことから逃げる

自分の家庭内に様々な問題を抱えていて、このオバちゃんは「戸建てを買えば全て解決する」と考えている。
人間は、現実から逃避し、夢を見て、それを叶えようと必死になることがある。
夢は、現実とは違うのだ。夢に振り回されて現実が疎かになることなんて本末転倒じゃないか。
働かない夫。引きこもりの息子。言うことを聞かない娘。
彼らには彼らの世界があるのだから、一戸建てを買ったからと言って彼らがオバちゃんの期待するような人間になる訳がないだろう。

と、私はオバちゃんに対して否定的な目線で終始読んでいた。

人間は自由だ。

自分で無理して仕事を頑張り、お金を貯めて、夢のマイホームを手に入れる。
立派な夢だと思う。そして人間は自由なのだから、その思いに従って生きるべきだ。

だけどそこに他人を巻き込んではいけないと思うのだ。
もし巻き込むのであれば、実行する前に相談し、同意を得る必要があるのではないだろうか。
彼らにだって言い分があるのだから。

この本に限らず、運命を巻き込んでしまうことがある。

ある父親が無理心中を図り家族を巻き添えにしてしまうニュース。
とても胸が痛む。

https://www3.nhk.or.jp/fukuoka-news/20210227/5010011088.html

父親は家族に対し、何か不安になるようなものを持っていたのだろうか。
それを、家族に相談せず、無理心中を図ったとしたら、この父親は責められるべきだろう、というのが一般的な見方になると思う。
多分父親にも何か思うところがあって、このまま生きていても家族にとって不幸になると思ったのかもしれない。
だとしても、と思う。そこで家族を巻き添えにして、彼らの未来を奪おうとする権利はないはずだ。彼らには暗い未来しか待っていないのだろうか。暗いとは?誰の目線で?

暗いとか明るいというのはひとつの価値観である。仮に金銭面で豊かな人生を歩めないと考えるのであれば、貧乏でも豊かな人生を歩んでいる人たちから学ぶべきだ。お金は資本主義が生んだ魅力的な道具かもしれない。だけどそれはただの道具であって、本来の目的である「人生を豊かに過ごす」というものを達成するためにはお金は必須なのではない。

Karolina Grabowska at Pexels

回収されない伏線に少しモヤモヤした

正直なところ、もうちょっと読んでいたかった。
何人かの人間が出てくるものの、あまり大人数が出てくる物語ではない。
その中で、脇役的なキャラがいくつかいて、彼らが繰り出す物語がきちんと回収されていないのが、ちょっともったいなかった。

伏線は回収されれば良いのだろうか。それは違う。
物語の本筋と関係ないものであれば、打ち捨てられていてもやむを得ない。
今回で言うと、入院してしまった介護先のお婆さん。
私はなんとなく彼女に感情移入してしまい、最期まで見届けたかった。
本筋がだいぶ盛り上がってきたところなので、回収する余裕なんてなかったのだろうけど。